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青森地方裁判所 昭和33年(ワ)113号 判決

東京都千代田区霞ケ関一の一

原告

右代表者法務大臣

小島徹三

右指定代理人検事

古館清吾

法務事務官 清水忠雄

大蔵事務官 高館芳男

大蔵事務官 吉田栄次郎

青森県五所川原市字田町四〇番地

被告

鹿内雄三

青森市大字浦町字野脇六五番地

被告

鈴木農機株式会社

右代表者代表取締役

鈴木正民

右両名訴訟代理人弁護士

中林裕一

右当事者間の昭和三三年(ワ)第一一三号詐害行為取消等請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

訴外鈴木機械工業株式会社、被告鹿内雄三間の昭和三〇年一月七日付別紙第一目録記載家屋についての売買は、原告との関係でこれを取消す。

被告鹿内雄三は、原告に対し、金六五〇、〇〇〇円を支払え。

訴外鈴木機械工業株式会社、被告鈴木農機株式会社間の昭和三〇年一〇月一八日付別紙第二目録記載物件についての売買中、別紙第三目録記載8、10、24、の物件に関する部分は原告との関係でこれを取消す。

被告鈴木農機株式会社は、原告に対し、別紙第三目録記載8、10、24、物件を引き渡せ。

原告の被告鈴木農機株式会社に対するその余の請求は、これを棄却する。

訴訟費用は、原告と被告鹿内との間に生じた分は被告鹿内の、原告と被告会社との間に生じた分はこれを一〇分し、その九を原告、他の一を被告会社の各負担とする。

事実

原告指定代理人らは、主文第一、二項と同趣旨及び「訴外鈴木機械工業株式会社(以下訴外会社という)被告鈴木農機株式会社間の昭和三〇年一〇月一八日付別紙第二目録記載物件についてした売買を取消す。被告会社は、原告に対し、別紙第三目録記載物件を引渡し、かつ、金一、四三二、五三九円を支払え、訴訟費用は、被告らの負担とする」との判決を求め、その請求の原因として、次のとおり述べた。

一、原告(仙台国税局所管)は、訴外会社に対し、昭和三〇年一〇月七日現在、別紙滞納額明細書記載の合計金二、四〇九、三二二円の租税権を有するものである。

二、訴外会社は、

1. 昭和三〇年一〇月七日、被告鹿内に対し、別紙第一目録記載の家屋を代金一、二一四、二五〇円で売り渡し、

2. 同月一八日、被告会社に対し、別紙第二目録記載の動産を代金合計金四、一七〇、〇〇〇円で売り渡し、

さらに、3. 翌一九日、被告会社に対し、実用新案権登録第四二七、二七二号及び営業権を金二、〇〇〇、〇〇〇円で売り渡した。

三、しかるところ、1.訴外会社は、原告に対する前記債務以外にも別紙残債務一覧表記載の合計金一〇、九〇五、一一四円に及ぶ債務を負担していたが、右二の1ないし3の売買代金の支払に代えて被告らにその債務の一部を引き受けさせたに拘らず、ひとり原告に対する本件債務についてはなんらの措置をもとらなかつた。2そこで、原告(青森税務署長)は、昭和三〇年一一月二六日、別紙差押物件目録記載の各物件及び訴外会社が訴外大沢常弘郎に対して有する農機具売買代金債権二二〇、〇〇〇円を差し押え、同月二八日、別紙差押債権目録記載の売掛代金二、八五二、四六六円及びSB―80型ベビー・トラクター・セクション一台を差し押え、右債権の取立及び動産の公売をしようとしたが、右売掛債権の内合計金二、二八五、四六五円は、昭和三〇年一〇月一〇日、既に訴外山久機械工業株式会社に譲渡され、内合計金七二七、五〇〇円は、右差押以前既に訴外会社が弁済を受けていたことが判明したので、いずれも債権が実在しないものとして差押を解除し(原告が現実に取り立て得たのは、僅かに金五九、五〇一円に過ぎなかつた)、他方右差押動産は、訴外会社の帳簿上高価に記載されていたけれども、公売処分による売得金は合計金四五、四〇〇円に過ぎなかつたのである。訴外会社には、他に、本件国税の支払を担保する資産はなかつた。

3. 以上の次第で前記二の1.2.の各売買は、訴外会社が本件国税の滞納処分による差押を免れるため故意にしたものであることが明らかである。

なお、前記各売買当時、被告鹿内は、訴外会社の監査役、被告会社代表取締役松井三次郎は、訴外会社の取締役の地位にあつたのだから、被告らは、いずれも、訴外会社の右事情を知り尽していたものである。

四、よつて、原告は、(旧)国税徴収法第一五条により、

(一)  被告鹿内に対し、(1)前記二の1の売買の取消しを求めるとともに、(2)同被告は、別紙第一目録記載の家屋を昭和三二年七月九日訴外株式会社丸大大島商店に譲渡し、同月一二日、同会社に対し所有権移転登記手続を経由したので、その回復に代わる損害の賠償として、右家屋の価格相当金六五〇、〇〇〇円の支払を求め、

(二)  被告会社に対し、(1)前記二の2の売買の取消しを求めるとともに、(2)別紙第二目録記載物件中、被告会社に現存する別紙第三目録記載物件の引渡及びその余の物件は被告会社が消費又は喪失したのであるから、その引渡に代わる損害賠償として、その価格相当金一、四三二、五三九円の支払を求めるため本訴請求に及んだ。

と以上のとおり述べ、

被告ら主張の抗弁事実を否認する。

と述べ、

立証として、甲第一ないし第五四号証、第五五号証の一、二、第五六、五七号証、第五八号証の一、二、第五九、六〇号証、第六一、六二号証の各一、二、第六三号証、第六四号証の一、二、第六五ないし第六八号証、第六九号証の一、二、第七〇ないし第七五号証第七六号証の一、二、第七七、七八号証の各一ないし三、第七九ないし第八一号証、第八二号証の一、二を提出し、証人佐々木喜秋、飯田喜代司、平泉秀一、川浦唯雄、上林豊作の各証言を援用し、乙号各証の成立は不知と述べた。

被告ら訴訟代理人は「原告の請求は、いずれも棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする」との判決を求め、

一、被告鹿内のため、

(一)  答弁として、請求原因事実一、二は認める。同三の1のうち、訴外会社が原告に対する本件債務以外にも別紙残債務一覧表記載1ないし5、7ないし10の全額及び12の債務中金二、四四八、三八二円の債務を負担しており、その債務中一部を原告主張二の1ないし3の売買代金の支払に代え、被告らに債務引受をさせ、原告に対する本件債権については、なんらの措置をもとらなかつたこと及び2のうち、青森税務署長が原告主張の日にその主張のような売掛債権及び動産を差し押えたこと、売掛債権中山久機械工業株式会社に譲渡されたものがあること(但し、金額は除く)、差押動産が原告主張の価格で公売されたことは、いずれも認めるが山久機械工業株式会社に譲渡された債権の額及び金七二七、五〇〇円を差押以前に訴外会社が弁済を受けていたこと、

訴外会社には原告主張の資産以外に本件国税の支払を担保する資産がなかつたことは否認する。その余の事実は不知。3そのうち原告主張二の1の売買当時、被告鹿内が訴外会社の監査役の地位にあつたことは認めるが、右売買が本件国税の滞納処分による差押を免れるため故意にされたものであり、被告鹿内が、この事情を知つていたとの事実は否認する。同四(一)の(2)のうち、被告鹿内が、昭和三二年七月一二日、原告主張の家屋につき、訴外株式会社丸大大島商店に所有権移転登記手続を経由したことは認めるが、右家屋を被告鹿内が右訴外会社に譲渡したことは否認する。

訴外会社は、昭和三〇年一〇月一八日現在の決算において、別紙計算書記載のとおり、僅かながら金四四二円の黒字であり、原告の本件国税は、原告が差し押えた売掛債権及び動産をもつて完済するに充分だつたのである。

(二)  抗弁として、

1. 原告主張二の1の売買が仮に訴外会社の詐害行為であるとしても、右売買は、昭和三一年六月ころ、被告鹿内と訴外会社との間で合意解除した(その後、訴外会社が訴外株式丸大大島商店に譲渡したものであつて、被告鹿内の登記を抹消する代わりに被告鹿内から直接右訴外会社に所有権移転登記手続を経た)のであるから、もはや、本訴による取消しの対象とはなり得ないものである。

2. 公に付された別紙差押物件目録記載の動産は、当時、合計金一、六六七、五二八円の価格があつたに拘らず、原告がことさらこれをくず物同様に取り扱つて、金四五、四〇〇円で公売処分したのであるから、その本来の価格は、当然滞納税金の納付にあてられるべきものといわなければならない。

3. 仮に、原告主張二の1の売買が本件国税の滞納処分による差押を免れるため故意にされたものであるとしても、被告鹿内は、その事情を知らない善意の受益者であるから、本訴請求には応じられない。

と述べ、

二、被告会社のため

(一)  答弁として、請求原因事実三のうち、原告主張二の2の売買当時、被告会社代表取締役松井三次郎が訴外会社の取締役の地位にあつたことは認めるが、右売買が本件国税の滞納処分に右事情を知つていたとの事実は否認する。同四(二)の(2)中被告会社に現存する物件が原告主張のとおりであることは否認する。その余の請求原因事実に対する答弁は被告鹿内のそれを援用する。

(二)  抗弁として、

1. 被告鹿内主張の抗弁事実を援用する。

2. 仮に、原告主張二の2の売買が本件国税の滞納処分による差押を免れるため故意にされたものであるとしても、被告会社は、その事情を知らない善意の受益者である。

と述べ、

三、立証として、乙第一ないし第一〇号証を提出し、証人佐藤元一、秋田勇逸、青木多喜持、竹内由蔵の各証言及び鑑定人飯田喜代司の鑑定の結果、被告鹿内雄三、被告会社代表者(第一回)本人尋問の各結果を援用し、甲第四ないし第七号証、第五三号証の原本の存在及び甲第一ないし第五四号証、第五五号証の一、第五六、五七号証、第五八号証の一、二、第五九、六〇号証、第六一号証の一、第六二号証の一、二、第六三号証、第六七号証、第七三、七五号証、第七六号証の一、第六七号証の一、二の各成立を認め甲第六五、六八号証のうち、各郵便官署作成部分はその成立を認めるが、その余の部分の成立は不知、第五五号証の二、第六一号証の二、第六四号証の一、二、第六六号証、第六九号証の一、二、第七〇ないし第七二号証、第七四号証、第七七号証の三、第七九ないし第八一号証、第八二号証の一、二の各成立は不知と述べた。

当裁判所は、職権により被告会社代表者(第二回)の本人尋問をした。

理由

原告(仙台国税局所管)が、昭和三〇年一〇月七日現在、訴外会社に対し、合計金二、四〇九、三二二円の国税法人税、源泉所得税、利子税、延満加算税)債権を有すること及び訴外会社が、(一)、昭和三〇年一〇月七日被告鹿内に対し、別紙第一目録記載の家屋を代金一、二一四、二五〇円で、(二)、同月一八日、被告会社に対し、別紙第二目録記載の物件を代金合計金四、一七〇、〇〇〇円で、(三)、翌一九日被告会社に対し、実用新案権登録第四二七、二七二号及び訴外会社の営業権を代金二、〇〇〇、〇〇〇円で、それぞれ譲渡したことは、いずれも当事者間に争いがない。

被告鹿内は、右(一)の売買は、昭和三一年六月ごろ、訴外会社との間で合意解除したから詐害行為取消しの対象となり得ない旨抗弁し同被告及び被告会社代表者(第一回)各本人尋問の結果中右主張に添う供述があるけれども、右各供述は、成立に争いのない甲第五四号証(被告鹿内の五所川原税務署大蔵事務官須藤英之助、同梅津正雄に対する供述調査)の「……煩わしくなり、鈴木氏に対し、転売方を昭和三一年(日時記憶喪失)依頼したところ、昭和三二年夏ごろ、鈴木氏の仲介により……売却した」との被告鹿内が訴外会社から買い受けた右第一目録記載の家屋の転売についての供述記載に照らし、いずれも信用できないし、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。

そこで、先ず、右(一)の売買が、本件国税の満納処分による差押を免れるため故意にされたものであるか否かにつき、検討する。

訴外会社が本件国税債務以外にも、別紙残債務一覧表記載の1ないし5、7ないし10の合計金四、三七四、八五四円の債務を負担していることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第五九号証によると、同一覧表記載6の金三〇、〇〇〇円、証人上林豊作の証言によると、同一覧表記載11の金四二〇、〇〇〇円、成立に争いのない甲第五三号証によると、同一覧表記載12の金六、〇八〇、二六〇円を負担していることが認められ、訴外会社は、本件国税債務以外にも、以上合計金一〇、九〇五、一一四円の債務を負担していたがこのうち金七、三八四、二五〇円を、前記(一)ないし(三)の売買代金の支払に代えて被告らにそれぞれ引き受けさせる措置を講じたに拘らず、ひとり原告に対する本件国税債務についてはなんらの措置をもとらなかつたことは当事者間に争いがない。

そして、原告(青森税務署長)が訴外会社に対する満納処分として、昭和三〇年一一月二六日、別紙差押物件目録記載の各物件及び訴外会社が訴外大沢常弘郎に対して有する農機具売買代金債権金二二〇、〇〇〇円を各差し押え、同月二八日、別紙差押債権目録記載の売掛債権合計金二、八五二、五六六円及びSB―80型ベビー・トラクター・セクション一台を各差し押えたことは当事者間に争いがないところ原告は、右差押債権中、実在したのは、僅かに金五九、五〇一円にすぎなかつたし、右差押動産は、訴外会社の帳簿上相当高価に記載されていたけれども、公売によつて得た金額は僅かに金四五、四〇〇円にすぎず、他に本件国税債権を担保する資産はなかつた旨主張し、被告らは、右差押にかかる売掛債権はすべて実在し、これと動産をもつて原告に対する債務を弁済するに充分だつたと主張する。

よつて、(1)、先ず、訴外大沢常弘郎に対する売買代金債権の存否につき考えるに、証人佐々木喜秋の証言によれば、右訴外人に対する債権差押は、訴外会社が右訴外人に対してSB―80型ベビー・トラクター・セクション一台を代金二二〇、〇〇〇円で売却したとの訴外会社の帳簿の記載に基づいてされたものであるところ、事実は、訴外会社が右訴外人に対して、訴外会社の宣伝用として右トラクターを貸与していたものであつて、右帳簿の記載が誤りであつたことが認められる。

(2) 次に、別表差押債権について考察する。

(イ)  成立に争いのない甲第二九号証、第五三号証、前掲証人佐々木喜秋の証言によれば、右目録1一ないし、8、10ないし20、30、40ないし45、47、54、55、60ないし67、69の合計金二、二七七、一一五円は、右差押以前の昭和三〇年一〇月一〇日既に訴外会社から、訴外山久機械工業株式会社に対しこれに相当する額の同会社に対する約束手形金債務の支払確保の目的で譲渡されていたことが認められる(同目録記載9及び32の合計金八、三五〇円は、成立に争いのない甲第二九号証により、山久機械工業株式会社に譲渡されていたことを理由に差押が解除されたことが認められるが、右債権が山久機械工業株式会社に譲渡されていたことを認めるに足りる証拠はない。しかし、右債権は、前記(1)に認定の貸与していた物件を売却したように帳簿に記載していた事実に、右証人の証言を総合すると、訴外会社の右債権についての帳簿の記載が信用できない状態にあつたことが認められる。仮に、訴外会社の帳簿の記載が真実で右債権が実在したとしても、訴外会社自身がその取立に極めて困難を感じた、いわゆる不良債権に属することは、被告会社代表者本人尋問の結果に徴し明瞭であるから、本件国税債権の担保とはなり得ない)。この点に関する被告会社代表者(第二回)本人尋問の結果中「昭和三〇年一〇月一〇日、訴外会社と山久機械工業株式会社との間にした別紙差押債権目録記載1ないし9、10ないし25、31、40ないし45、47、54、55、60ないし67、69の合計金二、二七七、一一五円の債権譲渡は、同年一〇月一七日合意解除し、同日、訴外会社は、山久機械工業株式会社に対し、新たに耕うん機二〇台(一台の価格金一七八、〇〇〇円の割合で合計金三、五六〇、〇〇〇円)を譲渡し、更に、訴外会社が山久機械工業株式会社に発注していた部品のうち履行されなかつた部品の代金七一、〇〇〇余円を差し引いた残額金二、四四〇、〇〇〇余円につき、(1)、金額金一、二五〇、〇〇〇円、支払期日昭和三〇年一〇月二五日、(2)、金額金一、〇〇〇、〇〇〇円、支払期日同年一一月三〇日、(3)、金額金一九八、〇〇〇円支払期日同年一二月二五日の約束手形三通を振り出し、右手形の支払確保の目的で金一、二五九、〇〇〇余円の売掛債権と金八八九、〇〇〇余円の部品とを譲渡したほか、額面金三〇〇、〇〇〇円の受取手形を裏書譲渡した」旨の供述があるけれども、証人川浦唯雄の証言に照し採用できないし、他に右認定を左右する証拠は存しない。

(ロ)  成立に争いのない甲第三〇ないし第三八号証、第六七、七三号証、第七七号証の一、二、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第六四号証の一、二、第六五、六六号証、第六八号証、第六九号証の一、二、第七一、七二、七四号証、第七七号証の三第七八号証の一ないし三、第七九ないし八一号証、第八二号証の一、二に、前記証人佐々木喜秋の証言を総合すると右目録記載26、29、33、35、37、38、46、49及び50のうち金二、〇〇〇円、52、53、57、58、68の合計金一三五、五六〇円は、前記差押以前既に、訴外会社が各債務者から弁済を受けていたこと同目録記載27、30、36、48、51、56の合計金三五一、九四〇円は、訴外会社と債務者間で債務額につき争いがあつたり、あるいは債務者から差押に対する異議等があつたため、訴外会社の右債権額についての帳簿の記載が信用できない状態にあつたことが認められる。右認定に反する証人青木多喜持の証言及び被告会社代表者(第一回)本人尋問の結果は、にわかに信用できないし、仮に、右債権の一部が名目上実在したとしても、被告会社代表者(第一回)本人尋問の結果によれば、差し押えられた債権は、いずれも訴外会社でも取立に極めて困難を感じていたこと及び差押解除があつて既に久しい今日なお訴外会社でこれを取り立てていないことが認められるから、結局において、右債権は有名無実に等しいものといわなければならない。

(ハ)  成立に争いのない甲第三四号証、第七六号証の一、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第七六号証の二によれば、同目録記載34の川除村農業協同組合に対する債権金二〇、〇〇〇円は、存在しなかつたことが認められ、仮に存在したとしても前記(ロ)末段で説明したものと同様、訴外会社で回収できないままま放置していたことは被告会社代表者(第一回)本人尋問の結果により明白であるから、これもまた有名無実のものといわなければならない。

(ニ)  成立に争いのない甲第三九ないし第四二号証、前掲佐々木喜秋の証言によれば、同目録記載50の成田末吉に対する金四〇、〇〇〇円中訴外会社が弁済を受けた金二、〇〇〇円を除く残金三八、〇〇〇円、同28青森県畜産課に対する金一〇、六三一円、同39七戸実験農場に対する金九、〇〇〇円、同59小坂農機器具店小坂実雄に対する金一、八七〇円以上合計金五九、五〇一円は原告が現実に取り立てたことが認められる。

(3) 次に、差押にかかる動産の価格につき検討する。

(イ)  成立に争いのない甲第四五、四九、五一号証によれば、昭和三一年四月一九日、青森税務署長は、SB―80型ベビー・トラクター・セクション一台をスクラップとして金七、〇〇〇円で売却決定したことが認められるところ、右物件が右以上の価格があつたことについては被告らが主張立証しない。

(ロ)  別紙差押物件目録記載の売掛品等動産について考えるに、右物件が金三八、四〇〇円で公売されたことは前記によつて明らかであるが、被告らは、右物件は公売当時、金一、六六七、五二八円相当の価格があつたと抗争する。

そこで、成立に争いのない甲第四三号証、第四六号証に前記佐々木喜秋の証言を総合すると、右物件は、訴外会社の実用新案権のある製品であるため一般市場性がないところから、青森税務署長は、被告会社から右物件の買受の申入を受けたけれども、被告会社は訴外会社の第二会社であるとの理由のみをもつて、買受人としては不適格だとしてその申入を許さず、これをスクラップとして公売に付したこと、しかし、右公売に際し、被告会社に売却することにより国が損害を受けるおそれが全くなかつたばかりか右公売代金額を遙かに上回る価格で売却できることが予測されたことが認められ、右事実に、証人飯田喜代司の鑑定の結果を総合すれば、右売却当時、右物件は、少なくとも被告ら主張の金一、六六七、五二八円相当の価格があつたもと認めるが相当である。

以上のとおりだとすると、昭和三〇年一〇月七日現在、訴外会社に、は右に認定した売掛債権合計金五九、五〇一円、SB―80型ベビー・トラクター・セクション一台(価格金七、〇〇〇円)及び別紙差押物件目録記載の仕掛品等動産(価格合計金一、六六七、五二八円)以上合計金一、七三四、〇二九円相当の資産(本件(一)の売買当時は、積極財産として、なお、(二)、(三)、の売買の目的物及び後日前記の如く山久に譲渡した売掛金債権があつたわけであるが、あたかもこれに見合う消極財産として被告らに引き受けられた債務並びに山久に対する債務があつたのであるから、便宜上、これを相殺のうえ、計算から除外して考える)があつたものというべきである。訴 外会社の資産状態が右認定以上に良くなつたと認めるべき証拠はない。

しかし、右資産をもつては原告の本件国税債権を担保するに不充分であつたことは明らかであり、また、訴外会社は、昭和三〇年当時、黒字の月が一度もなく相当の赤字経営の状態であつたところから、会社を解散して、いわゆる第二会社として被告会社を設立する機運にあつたことは成立に争いのない甲第九ないし第一二号証の供述記載に徴し明瞭であるから、本件(一)の売買は、訴外会社が本件国税の滞納処分による差押を免れるため故意にしたものといわなければならない。

被告鹿内は、本件(一)の売買が本件国税債権を害するものであることを知らなかつたと主張し、同被告本人尋問の結果中右主張に添う供述があるけれども信用できないし、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はなく、かえつて、被告鹿内が、右売買当時、訴外会社の監査役の地位にあつたことは当事者間に争いがなく、同被告が訴外会社の代表取締役訴外鈴木正市個人の義弟の関係にあることは、同被告本人尋問の結果により認められるところであり、訴外会社の資産を処分することについて同被告が他の役員達と相談したことは前掲甲第一〇号証の供述記載に照らし明らかであつて、これらの事実からすれば、同被告は、右売買が本件国税の滞納処分による差押を免れるため故意にされたものであることを知つていたものと推認すべきである。

そして、前掲甲第三九ないし第四二号証、成立に争いのない甲第四八号証、第五一号証によれば、原告において、前記(2)の(二)で認定した合計金五九、五〇一円、別紙差押物件目録記載物件の前記公売代金三八、四〇〇円のうち金二九、二八〇円及び前記トラクター売却代金七、〇〇〇円以上合計金九五、七八一円を本件国税債権に充当したことが認められるから、現在の本件国税債権額は金二、三一三、五四一円となるところ、訴外会社の前記資産は、価格金一、七三四、〇二九円から右充当金額を控除した金一、六三八、二四八円に減じたことは明らかであるから、結局、本件国税債権中金六七五、二九三円を担保する資産がなかつたことになる。

しかるところ、前記甲第五四号証の供述記載に、成立に争いのない甲第三号証を総合すると、被告鹿内は、昭和三二年七月九日、訴外鈴木正市の仲介により別紙第一目録記載の家屋を訴外丸大大島商店に対し、代金七、八〇〇、〇〇〇円で転売したことが認められ、同月一二日、同訴外会社に所有権移転登記手続を経由したことは当事者間に争いがない。そうすると、右家屋は、少なくとも原告の主張する金六五〇、〇〇〇円相当の価格があつたことは容易に推認できるしこの認定を覆えすに足りる証拠はない。

以上の説明のとおりであるから、本件(一)の売買は、詐害行為として取消しを免れず、被告鹿内は、前記家屋を他に処分してその登記名義を有しないので、右家屋の所有の回復に代わる損害の賠償として、右家屋の価額相当金六五万円を原告に支払う義務がある。

次に、被告会社に対する請求について考察する。

右に説明のとおり、原告の本件国税債権中金六七五、二九三円については、訴外会社にこれを担保する資産がなかつたところ、右被告鹿内に対する本訴請求の認容により、訴外会社の資産として前記金六五〇、〇〇〇円増加したことになるから、これを原告の債権額から減ずると、結局、本件(二)の売買が行なわれた昭和三〇年一〇月一八日現在において、担保されない原告の本件債権は金二五、二九三円となることは計数上明らかである。

被告会社は、本件(二)の売買により原告の本件国税債権を害することは知らなかつたと主張し、被告会社代表者(第一回)本人尋問の結果中右主張に添う供述があるけれども、右供述は、前記認定の訴外会社の無資力と前記甲第九、一〇、一二号証の供述記載に照らし信用できないし、他に右主張を認めるに足りる証拠は存しない。

そして、被告会社代表者(第一回)本人尋問の結果によれば、別紙第二目録記載物件は、右売買当時、少なくとも、右目録に各付記した金額合計金四、一七〇、〇〇〇円の価格があつたこと、同目録中現に被告会社に残存する物件は、別紙第三目録記載物件中2、5、7、8、10、12ないし15、24、26の各物件であることが認められる(原告は、別紙第三目録記載物件全部が被告会社に現存すると主張するけれども、右以外の物件が現存することを認める足りる証拠はない)。

右に説明したとおりであるから、本件(二)の売買は、前記認定の金二五、二九三円の限度で、別紙第三目録記載物件中、価格の合計額が右金額を超過するけれども比較的剰余の少ない8、10、24の物件に関する部分を取り消すべく、被告会社は、これを原告に引き渡す義務があるが、その余の義務を負わないものというべきである。

よつて、原告の本訴請求中、被告鹿内に対する請求は、全部理由があるからこれを認容し、被告会社に対する請求は、右認定の限度で理由があるから、これを認容し、その余の請求は、失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条第一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 野村喜芳 裁判官 福田健次 裁判官 野沢明)

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